すぐそばにある別の世界

randoseru やっと書ける話

昨日、子供の頃一番最初に住んでいたところをグーグルマップで見ていました。

ストリートビューのデータは昨年のもので、たぶん今もあまり変わりないでしょう。

当時の家はリフォームされてまだありましたが、道をはさんで向かい側はまったく新しくなっていました。

土地の形自体が変わっているようです。50年前の面影を残すところと、初めて見る新しい場所の混在が、とても不思議なもののように感じました。

家の前の道路は、トラックが通れるほどの道幅がありました。道をはさんで両側にずらりと家々が軒を連ねる、昔からの街並でした。

我が家の斜め向かいには、細い路地があり、年中湿った空気のその路地を抜けて遊びに行くこともありました。

小学校に入学した少しあと、その日は土曜日でお昼前に帰ってきました。

鍵は開いてたけど、家に母親はいませんでした。おばあちゃんは寝ているようです。認知症が進み、トロトロと寝ていることが多かったと記憶しています。

私はランドセルを置いて外に出ました。お陽さまがポカポカと気持ちよく、なんとなく向かいの路地へ向かいました。

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すると真っ昼間の真上からまぶしいほど射していた光はさえぎられ、一気にひんやりと冷たい空気に変わりました。

小さな平屋の家が密集するその一角は、どの道も全部細くて、敷石やセメントでできていました。

密集していて日当たりも良くなく、迷路のようになっていたので、かくれんぼに最適でした。

その中を歩いていると、何かいつもと違う、変やな?と気が付きました。

いつも外までよく聞こえるほど、大きな音でテレビを見ている家から、何も聞こえません。

特にお昼どきは絶対にテレビの音が聞こえるはずなのに。

耳をすましても何も聞こえません。

他の家からも、話し声や食器のカチャカチャいう音もまったく聞こえません。

誰もいないのでしょうか。お年寄りの多い地域です。そんなはずはありません。

よく耳をすましてみると、生活音どころか人の気配もないし、風の音も、車が走る音も、一切聞こえません。

まったくの無音の世界でした。

私はとてつもなく怖くなって、走り出しました。

自分の走ってる音さえ聞こえないのです。

早くここから出たい一心で走りました。

もう少しで路地から出られます。正面に陽の照る眩しい道路が見えてきました。

路地の家の前には、木製の溝蓋がのってる排水路がありました。

そこを走りながら踏んだ時、ゴトッと音がしました。

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「あ、もどれる!」

そう感じて、明るい道路へ飛び出しました。

やった!もどれた!と安堵しました。

しかし誰もいないし、無音です。太陽だけがまぶしく降り注いでいます。

「あれ?どうなってるん?」

呆然と立ちすくんでいると、工場からおじさんが1人出てきて、ボリュームのスイッチを回すように音が戻ってきました。

いつもと同じ、何かはわからないけどザワザワとした生活音です。

これで本当に戻れたのか不安で、しばらくの間ビクビクして過ごしました。

まるで防音室のような無音の世界は異様でした。

まったく同じものが存在するけど、今いる現実とは別の世界でした。

小さい私は戻ってからがガクブルでした。当時はパラレルという概念を知らないので、白昼夢だということにしていました。

戻れてよかったと心から思います🤗

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