見えないルーツのお話に、はまらなかったピースがあります。
鬼が出てくるから関係ありそうだけど、ぴったりとはまるところがありませんでした。
今日は夢で見た、そのお話です。
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雲海に浮かび上がる山城を、ご覧になったことはありますか。
兵庫県の竹田城や、岡山の備中松山城が有名でしょうか。
遠い遠い昔、雲海が眼下に広がるその山には、城はないけれど鬼の世界とつながる穴がありました。
マンホールぐらいの穴は、鉄でも石でもない、重い重いフタで閉じられていました。
そのころ、人と鬼がゆるく関わり合いながら暮らすことが、少ないけどあったようです。
その山の中腹の集落にも、時々鬼が来ていました。
人々は最初は警戒したものの、鬼が来ることに慣れていきました。
乾いた笹の葉色の鬼は、若い男鬼でした。イッキよりもやや線が細く、好奇心いっぱいで、何よりとんでもない力持ちでした。
若い鬼に人の世での振る舞いを教えたのは、40才ぐらいの集落の女性でした。
やってはいけないこと、あいさつ、人の言葉、手伝い。彼女は親切に根気よく教えました。それはまるで、中学の先生と生徒のような関係でした。
やがて鬼は人々の仕事を手伝うようになっていました。楽々と岩を切り出し、軽々と木を運ぶことができました。
人々はとても助かり、ありがとうと言い、気さくに接するようになりました。
鬼の世界では「感謝」がポピュラーではなかったのか、鬼は初めて感じる不思議な気持ちを、心地よく感じていました。
やがて怪力の鬼の噂は、隣国の殿様の耳に入ったのです。
殿様は怪力の鬼を脅威と恐れました。増長せぬうちに、潰さねばならん、と。
すぐさま大勢の優秀な兵を引き連れ、集落の近くまでやってきました。
若い鬼の危険を察知した女性は、鬼とともに山の上へ急ぎます。そこには鬼の世界と通じる穴があるのです。そこから鬼を逃さねばなりません。
鬼が穴のフタを開け、半身を入れたところで、追手に阻まれました。
殿様が声を荒らげます。
「その鬼をこちらへ引き渡せ!」
女性は鬼の前に立ちふさがります。
「鬼よ!お前が出てこないなら、女を射つ!」
兵士達が一斉に弓に矢をつがいギリギリと引き絞り、女性に狙いを定めます。
女性は前を向いたまま、後ろの鬼に言いました。
「行きなさい。必ずフタを閉めて。それは重すぎて人間では開けられないから。早く!」
鬼はフタを片手で支え、腰まで穴に入ったまま、動けません。
怖い、逃げたい、でも逃げたら…
女性はもう一度、穏やかに言いました。
「もう行きなさい。そして二度と来てはいけませんよ」
鬼はハッと我に返り、覚えたばかりの人の言葉で言いました。
「ア…アリ…アリガトウ」
そう言って頭まで穴に入ると、重いフタを閉めました。
もうなにも聞こえません。
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